テレワークの普及が2割?

公益財団法人 日本生産性本部が2021年4月22日に発表した「第5回 働く人の意識調査」で明らかにされた、テレワークの普及が2割という数字は、西村経済再生担当大臣が経済界に要請した、テレワーク7割の実施の推進には到底届かない数字です。

また、経団連が2021年1月に実施した調査(緊急事態宣言下におけるテレワーク等の実施状況調査結果)では、9割の企業が在宅勤務やテレワークをしていると回答しています。今回の調査結果とは大きく開きがありますが、どうなのでしょうか。本調査は過去5回(2020年5月、同7月、同10月、2021年1月、同4月)実施されており、その比較も含めて見ていきましょう。

テレワークの実施率

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日本生産性本部のレポートから作成

直近の調査結果ではテレワークの実施率は19.2%となっており、前回の調査結果からも低下しています。第一回目の緊急事態宣言が発出された直後である2020年5月は31.5%となっており、一時的にテレワークの実施は進んだものの、緊急事態宣言の解除後はテレワークも解除され、約20%程度に減少、首都圏と関西では2021年1月に2度目の宣言発出、同4月にはまん延防止等重点措置が発出されたが、その後、再度実施することも少なかったように見受けられます。

日本生産性本部は「宣言・措置の企業への影響力が 2020 年 4~5 月頃と比較して低下していることを示唆していると思われる。」と結論づけています。

テレワークの実施率 東西の比較

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日本生産性本部のレポートから作成

続いて、東西でのテレワークの実施率の比較です。大阪・兵庫に比べて、関東1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)のほうが総じてテレワークの実施率が高い結果が出ています。直近の2021年4月は「まん延防止等重点措置」が適用されていたが、大阪・兵庫を勤務地とする雇用者のテレワーク実施率は18.4%で、21年1月、20年10月調査とほぼ同水準となっています。

これはなぜか、首都圏と関西で差がつく理由の一つとみられるのが、産業構造の違いです。
日本テレワーク協会の調査で、業種別のテレワーク導入率が最も高いのは情報通信業と言われており、その実施率は50%近くあると言われています。また、総務省の2016年の調査によると、その情報通信業で働く人の割合は、東京では全体の9.4%を占めるのに対し、大阪は3.2%となっています。

また、大阪ではテレワークが難しい業種で働く人が多いことも理由の一つと考えられます。工場勤務者の割合が大きい製造業で働く人は、大阪では13.8%となっており、東京では6.6%となっています。

他にも中小企業の数などいくつかの要因はあるものの、こういった理由で東西のテレワークの実施率に違いが出てきているものと推測されます。

テレワーク実施者の直近1週間の出勤日数

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日本生産性本部のレポートから作成

週のうち半分以上テレワークを実施している人は 51.2%(「0日」「1~2日」の合計)で、2021年1月調査の 55.0%より減少しています。週の全ての日数についてテレワークを実施しているのは、実施率(19.2%)× 週当たり出勤日数0日の率(18.5%)で、全雇用者の 3.6%にとどまっています。

上記を見るに、テレワークを実施している企業では、輪番のような体制で出勤日を減らす施策を行っている、ということが見て取れます。

両調査のかけ離れた結果

見出しだけ確認すると、経団連の調査では9割の企業が在宅勤務やテレワークを実施、働く人の意識調査では、テレワークの実施は2割となります。よくよく各資料を確認してみると、経団連の調査では、企業として在宅勤務やテレワークを一部でも実施しているかをカウントしており、働く人の意識調査ではあなたはテレワークを実施していますか?という問のため、その結果に大きな開きが出た、ということでした。

また、経団連の調査では出勤者の削減率が65%となっており、テレワークがかなり普及しているように見えますが、こちらもエッセンシャルワーカーや製造現場従業者を母数から除外しているため、削減率が高いように見えると考えられます。

これらを勘案するに、企業として在宅勤務やテレワークの導入に取り組んではいるものの、みなさん全員への普及はまだまだということでしょう。

見えてきたテレワーク 推進への課題

では、なぜ在宅勤務やテレワークが普及していないのでしょうか?
こちらも「働く人の意識調査」にて課題はなにかを調査していますので、内容を見ていきましょう。

テレワーク実施のための課題

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日本生産性本部のレポートから作成

テレワークの課題について、複数回答可能な形式で問うたところ、通信環境や、机、照明などの自宅で仕事をするための環境を整えるための設備投資などを課題とする人が4割前後いることが見て取れます。これは働く人(雇用者)側への調査のため、こういった結果が出たものと推測しています。システム的な観点からであれば、情報セキュリティ対策やデータのネット上での共有化といった、社内のデータをどのように在宅勤務・テレワークで取り扱うかという方向に考えが向くように思われます。

事実、2020年5月時点での調査では、データのネット上での共有化を挙げる人がほぼ50%となっています。今回の調査では30%程度となっており、企業側によるネットワークや仕組みの改善が必要な課題については、企業側での調査も進み、課題がクリアになりつつあると推測できます。

労務管理上の課題

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日本生産性本部のレポートから作成

テレワークの長期化に伴い、労務管理上の課題がクローズアップされてきています。

テレワークの開始直後には、マウス操作が一定時間されていない場合は、勤務していないものとするや、常時カメラをONにしてWeb会議に接続しておき、相互監視をする状態などが話題になったこともありました。

こういった不安が、労務管理上の課題にも現れてきていると感じます。
特に顕著なのが、仕事の成果や評価の公平性における不安です。これは結果(成果)より過程(プロセス)を重要視する、日本企業の文化が現れているとも言えるでしょう。テレワークをしているのは楽をしている、サボっていると思われないかという不安や直接仕事ぶりが見えているわけではないので、正当な評価をしてもらえるのかという不安です。

テレワークは今後受け入れられるのか

では、そういった課題も見えてきている中で、テレワークは今後受け入れられるのでしょうか?
こちらについても調査結果に含まれていますので、見ていきましょう。

コロナ禍収束後もテレワークを行いたいか

日本生産性本部のレポートから作成

実際に在宅勤務・テレワークを行っている人を対象にコロナ禍収束後もテレワークを行いたいか、意向を質問した結果が上記のとおりです。
「そう思う」の31.8%と「どちらかと言えばそう思う」の45.0%を合わせるとコロナ禍収束後もテレワークを望む割合は76.8%となることから、すでに在宅勤務・テレワークを行っている人は、メリットを見出しており、今後も継続を望んでいることが見て取れます。

コロナ禍収束後、変化は起こりうるか

日本生産性本部のレポートから作成

続いて、新型コロナウイルス問題が収束した後の働き方や生活様式について、変化が起こりうるかを質問した結果が上記のとおりです。こちらを見る限り、いわゆるNew Normalに向けた変化の可能性を肯定・否定する意見の割合は、微妙に揺れ動いており、雇用者が思い描く未来像が定まるまでには、まだしばらく時間が必要であり、現状は過渡期にあると考えられます。

事実、IT業界に身を置く筆者でも、コロナ禍以前において、テレワークの導入については、出来ればありがたいという期待はありましたが、普及については否定的な考え方でした。そういったことからも揺れ動いている状況ではあるものの、確実に変化の可能性については感じています。

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日本生産性本部のレポートから作成

また、テレワークを経験した人と、経験していない人では変化に対する考え方について、特徴的な結果が見て取れます。調査結果では一部抜粋となっていますが、ほぼすべての項目でテレワークを経験した人のほうが変化の可能性を肯定する傾向が強く見て取れたとのことです。
また、時間管理の柔軟化や対面営業の縮小、地方への移住の変化の可能性で差が出ています。これは、実際に経験したことからイメージがしやすくなり、体験したことで実現への推進力になるとも言えると考えています。

小さなお子さんを持つご家庭では、一旦定時で仕事を切り上げ、夕食、お風呂、寝かしつけなどを済ませてから20~21時あたりから業務を再開するといった働き方をする方もいるようです。
今までであれば、20時程度まで仕事をしてから1時間かけて帰宅、その間いわゆるワンオペ育児が発生するような状況が当たり前となっていました。
テレワークで時間管理の柔軟化を経験したことにより、新しい働き方への可能性を大きく感じることとなったのかと推測されます。

まとめ

今回は、益財団法人 日本生産性本部発表の「第5回 働く人の意識調査」をもとにテレワークの実情と課題について説明しました。同調査結果では以下のように締めくくっています。

  • 昨年は史上初の緊急事態宣言で、経済・生活の諸側面に制約をうけ、コロナ禍の恐怖を痛感した
  • 今回の調査結果では感染する不安感はやや希薄化している
  • ワクチン接種率が世界でも下位であり、国と自治体は DX 等で、接種体制を早急に整備するべき
  • 企業にできる感染防止策はテレワークの推進が必要
  • 今の仕事をそのままテレワークにすると、「やはりテレワークはできない」という結論になる
  • そのため、テレワークを前提とした業務遂行プロセスの再設計に取り組むべき
  • テレワークの経験者は、新しい働き方や生活様式への変化の可能性を肯定する傾向が強い
  • 部分的でも新たな働き方を試みることが、DXをはじめとした未来への扉につながる

コロナ禍、緊急事態宣言下において、今までなかなか普及が進まなかった、テレワークが急速に普及し始めています。これ自体はICTに関わるものとして非常に歓迎する立場なのですが、使う側の知識や環境がなかなか整っていないというのも事実です。今まで企業がおろそかにしてきた部分へのツケを払うときがきた、とも言えるでしょう。